はじめに
半月板損傷の発生と原因
半月板損傷の症状
半月板損傷の分類
半月板損傷の診断
半月板損傷の治療
まとめ
診療内容
はじめに
半月板損傷は膝を傷める疾患で、発生頻度が非常に高い1つです。半月板は膝の関節を構成する大腿骨と脛骨の間にある繊維性の軟骨で、内側半月板と外側半月板の2枚からなります。内側半月板は薄くて幅が狭い前節から、後節にかけて徐々に厚みと広さを増します。外側半月板は前節から後節まで、幅も厚さも一定という特徴があります。そんな半月板を傷める半月板損傷では、膝の機能面に著しく障害を及ぼすものとなることから、まずは半月板の機能を紹介します。
衝撃の吸収
半月板の成分の70%は水であることから、半月板は膝のクッションの役割を果たしています。
関節適合性の向上
膝関節の伸展や屈曲にあわせ、靭帯や筋肉の牽引により半月板が移動することで、膝がスムーズに動くように関節の適合性を高めます。
衝撃の分散と伝達
半月板がない状態では、膝にかかる圧力が2〜3倍になるともいわれています。半月板は歩行時や立位時に、地面から加わる衝撃を分散させる役割をしています。
関節の安定性
半月板は膝関節の安定性を高めています。半月板損傷では靭帯損傷と合併して起こることが多く、特に前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:ACL)損傷と内側半月板損傷を合併すると、膝の前後への可動性が大きくなり、膝関節は不安定になります。
関節の潤滑
半月板が大腿骨と脛骨の隙間にあることで、その隙間に薄い関節液をみたします。この関節液は半月板と関節軟骨の間の潤滑膜として関節の摩擦を軽減します。関節液を分散させることで関節をスムーズに動かします。
このように人は半月板があることで、立つ・歩く・座る動作を不自由なく過ごせているのですが、半月板を傷める半月板損傷では日常生活に大きな支障を及ぼすほか、アスリートの選手生命にも影響をもたらすので詳しく解説します。
半月板損傷の発生と原因
半月板は筋肉や靭帯が付着することで関節の動きを滑らかにし、クッションの役割を担っています。しかし強固に固定されているわけではないため、スポーツなどの激しい運動による膝への負担から半月板を損傷することがあります。また半月板損傷の原因は外傷性によるものと、ハッキリとした原因がわからない非外傷性のものがあり、その好発年齢はスポーツをしているなど活動的な10歳~30歳です。
外傷性のものには野球・サッカー・テニス・陸上競技・柔道・ラグビーなど、急な方向転換が加わった際に起こるほか、バスケットボール・バレーボールなど、バランスを崩し膝に伸展・回旋の動きが加わった時にも傷めます。他にも路面が整備されていないような凸凹な道の歩行によっても傷めます。
非外傷性のものでは、加齢による変性が起点となり半月板を損傷します。また円板状半月といい、生まれつき半月板の形状が丸く厚みをおぼている形態異常によっても半月板を傷めやすくなります。
半月板を傷める際には膝が滑るような感覚や、ガクッと外れたような感覚を感じます。半月板損傷の際には、内側側副靱帯損傷や前十字靭帯損傷が合併して起こることが多く、膝に水がたまる関節水種や変形性膝関節症につながる可能性もあるので注意が必要です。
半月板損傷の症状
半月板を損傷すると発症する症状を紹介します。損傷した半月板の周辺に圧痛があるほか、傷めた側の足へ体重を乗せると痛みを感じる荷重痛がみられます。膝を動かす際には、引っ掛かりや痛み・クリックを感じます。また損傷した半月板が膝関節に嵌頓すると、膝を伸ばすことができず、ロッキングが起こります。さらには痛みをかばい安静状態が続くと、大腿四頭筋(太ももの筋肉)が弱まる廃用性萎縮を起こします。
半月板損傷の分類
半月板損傷は断裂した形態により分類されます。
・縦断裂 ・バケツ柄状断裂 ・水平断裂 ・横断裂 ・斜断裂(L字状)断裂
・フラップ状(弁状)断裂 ・円板状メニスクス断裂 ・複合断裂など
内側半月板を損傷した際には、前十字靭帯損傷と合併してバケツ柄状断裂と縦断裂が見られることが多く、外側半月板の損傷では円板状メニスクス断裂が多く見られます。
半月板損傷全体から見ると、前十字靭帯損傷の合併は1/4ほど占め、変形性膝関節症のような軟骨が起因となる疾患では1/3以上の割合で発生します。
半月板損傷の診断
半月板損傷の特徴であるクリック音や痛みは、マックマレー(McMurray)テストのような徒手検査により診ることができます。
マックマレーテストでは、患者様に仰向けで寝てもらい、股関節・膝関節を最大限に屈曲させ、膝を伸ばしていく際にクリックや痛みの有無を診ます。この際、内側半月板損傷では膝関節伸展・下腿外旋で関節の内側に、外側半月板損傷では膝関節伸展・下腿内旋で関節の外側にクリック音を認めます。また最大屈曲より90°の間でクリックや痛みがあれば外側または内側側副靭帯損傷、90°〜0°の間であれば外側または内側半月中節の断裂を推定することもできます。
ほかにも半月板損傷の有無を調べるには圧迫アプライ(Apley)テストがあり、靭帯損傷の合併を疑うならラックマン(Lachman)テストも有効です。半月板損傷と鑑別すべき疾患には靭帯損傷・膝蓋骨の脱臼・離断性骨軟骨炎・ガングリオン・ジャンパー膝・タナ障害・関節遊離体(関節ネズミ)・骨軟骨腫症などがあります。
半月板損傷における画像診断では、X線(X-ray)に異常が写りにくいことから、MRI(Magnetic Resonance Imaging)が必須の検査となります。ただX線の場合でも、発症後長期の及ぶものだと関節裂隙に異常を認める場合があります。
半月板損傷の治療
半月板損傷の急性期にはRICE処置を行います。Rest(安静)Ice(冷却)Compression(圧迫)Elevation(挙上)の頭文字をとったものです。RICE処置を行うことで出血や神経・血管の損傷を抑えます。半月板断裂の場合には保存療法や関節鏡を用いた関節鏡視下手術(切除術、縫合術、修復術)があります。半月板の機能面を考慮すると、できる限り保存的に、切除せずに残しておいた方が良いとされていますが、関節水症やロッキングといった症状を繰り返すもの・靭帯の損傷・小児の円板状半月に起因するものでは観血療法が適応されます。
保存療法
半月板を断裂後、ある程度の時間が経過し、症状も軽く、断裂の長さが1センチ未満の場合に有効です。物理療法により血流を促し、運動療法では大腿四頭筋、ハムストリングスを中心とした運動療法を行い、膝関節機能の回復に努めます。
半月板切除術
半月板損傷を引き起こしているところを部分的に切除します。高齢者の場合、変形性膝関節症と合併していることが多く、術後に関節症が進行しないように運動療法や足底挿板を使うなど注意が必要です。
半月板縫合術
縫合術は半月板の機能を失わず、変形性膝関節症になりにくいことが特徴です。しかし体への侵襲が大きいほか、術後の退院までの復帰期間が長く、再断裂する可能性があることから半月板の体部に変性を起こしていないことが手術の条件になります。
半月板修復術
半月板を意図的に傷つけることで、血流を促し修復を図る方法があります。ラスピングではヤスリを使い、半月板穿孔術では腰椎麻酔用の針を使います。
まとめ
損傷すると膝に大きな支障を及ぼすのが半月板損傷です。これまでは半月板を断裂すると半月板を取り除く、半月板全切除術が行われてきましたが、半月板が膝に与える機能面から半月板はできるだけ温存するようにと、半月板部分切除術や半月板縫合術が行われるようになりました。さらに近年では、半月板そのものを再生できる治療法である再生医療の出現により、大きな手術をすることなく、膝の痛みが改善されることが可能となりました。