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目次

変形性股関節症とは
原因
変形性股関節症の進行度合いと症状
変形性股関節症の診断・診察
変形性股関節傷の治療
・薬物療法、薬物療法、観血療法
・関節鏡視下手術
・関節鏡視下手術
・内反骨切り術、外反骨切り術
・寛骨臼移動術・寛骨臼回転骨切り術
・キアリ骨盤骨切り術
・人工股関節全置換術
変形性股関節症の予防
まとめ

診療内容

変形性股関節症とは

股関節に痛みを訴える股関節疾患で、1番多いのが変形性股関節症です。そもそも股関節は上半身と下半身の中心にある関節で、歩行の際には足を出すほか、体重を支えるなどの役割をし、日常生活を不自由なく送るには欠かせない関節です。そんな股関節の軟骨がすり減ることで、関節が変形するのが変形性股関節症です。股関節が変形すると日常生活に多大なる支障を及ぼします。本記事ではなぜ股関節が変形してしまうのか、変形性股関節症と診断されたらどうすればいいのか詳しく解説します

原因
原因

股関節の痛みで病院を訪れ、変形性股関節症と診断されるほとんどが50代以降の方になります。また男女比は、男性に比べて女性の割合が3倍以上高いことがわかっています。

日本整形外科学会股関節症判定基準のX線評価の3(前股関節症)以上を股関節症ありとした場合の有病率は,全体で4.3%(男性2.0,女性7.5)であった

引用:変形性股関節症 - Mindsガイドラインライブラリ 25/246ページ
閲覧日時2021.7.11 11:00https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/osteoarthritis-of-the-hip/osteoarthritis-of-the-hip.pdf


発生には一次性によるものと二次性によるものに分けられます。一次性の変形性股関節症は、股関節に何らかの異常がないにも関わらず発症します。その原因は加齢や肥満、激しいスポーツにより、関節に繰り返しの負荷がかかることで、関節軟骨がすり減り発生します。

二次性の変形性股関節症は日本人に多く、生まれつき股関節の形状に異常がある場合です。寛骨臼形成不全と呼ばれ、大腿骨を寛骨臼が包み込む範囲が小さいことが1番の原因です。他にも赤ちゃんの時に股関節脱臼の既往歴がある、股関節の骨折歴、家族や親族に変形性股関節症の人がいるなども関与してきます。

変形性股関節症の進行度合いと症状
変形性股関節症の進行度合いと症状

変形性股関節症になった初期は、立ち上がりや動き出しの初動時に股関節が痛みますが、休むと痛みは引いていきます。しかし進行期から末期になると、痛みが引くまでの時間が長くなり、じっとしていても痛むようにまでなります。

前股関節症の症状
寛骨臼形成不全はあるが、軟骨のすり減りはなく、寛骨臼と大腿骨の間にも隙間がある変形性股関節症の前段階の状態です。この時点では痛みがないことが多いですが、長時間の歩行では脚が疲れやすいと感じることがあります。

初期の症状
軟骨のすり減りが認められ、関節の隙間である関節裂隙(れつげき)は狭まります。クッションとして働く軟骨の機能が失われ、軟骨下の骨に刺激が入ることで骨が硬くなる軟骨下骨硬化が認められます。また骨に負担がかかることで出現・増殖する骨棘(こつきょく)と呼ばれるトゲ状の骨が認められることがあります。この頃には動き出しなどに股関節に痛みが出現します。

進行期の症状
変形性股関節症が進行すると、関節軟骨はさらにすり減り、骨棘も増殖。傷んだ骨に関節液が滲出することで骨に空洞ができる骨嚢胞も認められます。この頃にはじっとしていても痛みを感じるようになります。

末期の症状
末期になると骨棘・骨嚢胞はさらに増殖し、軟骨もすり減り関節の隙間はほとんど無くなります。骨同士が直接当たり合う状態です。ここまでくると痛みで関節運動そのものの機会が減るため、関節が拘縮し痛みを感じなくなるケースもあります。

変形性股関節症の診断・診察

変形性股関節症は画像診断や診察を通し、総合的に判断して変形性股関節症と診断されます。いくつもの検査法や患者様の関節の状態から判断し今後の治療方針を決めます。


画像診断
変形性股関節症の画像診断にはX線(x-ray)が用いられます。撮影方法は主に正面と側面の2方向から股関節を撮影します。変形性股関節症では、関節軟骨のすり減りにより狭まった大腿骨と寛骨臼の隙間を確認するほか、骨棘や骨嚢胞の形成を確認します

また寛骨臼形成不全の確認をするため、寛骨臼がどれだけ大腿骨頭を覆えているかを示す値であるCE角(Center-Edge Angle)も診ていきます。正常は25°以上ですが、CE角が減少し10~15°以下では変形性股関節症につながるリスクが高まります。

画像診断にはX線のほか、MRI(Magnetic Resonance Imaging)やCT(Computed Tomography)撮影があります。MRIでは軟骨や靭帯、CTでは軟骨や骨嚢胞の状態を細かく確認することができるので、必要に応じて使い分けられます。また骨シンチグラフィーや血液生化学検査を行うことで骨折や腫瘍、関節リウマチがないかを診ることで、変形性股関節症との鑑別をします。

診察
診察

問診では痛みを感じた時期や部位・程度のほか、臼蓋形成不全・先天性股関節脱臼の既往歴、家族歴、負担がかかるような日常の過ごし方をしていないか等の情報を聞きます。

触診では股関節症特有の所見である脚長差、跛行、鼠径部痛、可動域をチェックします。変形性股関節症では関節可動域が狭まるため、股関節の屈曲・外転・外旋・内転・内旋を主に調べます。


患者様に仰向けで寝転んでもらい、痛む方の股関節を屈曲・外転・外旋することで股関節の痛み有無を診るパトリックテストも有用です。またスカルパ三角に圧を加え痛みの有無を調べます。スカルパ三角とは大腿三角ともいわれ、鼠径靭帯・縫工筋・長内転筋で囲まれた部位で、深部に股関節があることから股関節疾患では圧を加えられると痛みを感じます。

変形性股関節症が進行すると、痛みを庇いながら動作を行うため、歩行のバランスが乱れる跛行がみられます。痛みにより股関節の外転筋が筋力低下すると、健康な方へ骨盤を傾けて脚を引きずるようにして歩く、トレンでレンブルグ跛行も股関節疾患と判断する所見になります。そのほかにも以下のような歩行を特徴とします。


変形性股関節症の歩行
・小股でしか歩けない
大股で歩くと関節が広がり痛みが増すことから、小股での歩行になります。

・右や左など上体を揺らしながら歩行する
軟骨のすり減りが進行すると、大腿骨と寛骨臼との隙間がなくなり脚の長さに左右差(脚長差)が出現し、左右へ上体を揺らしながら歩行します。

・片足を引きずりながら歩行する
歩くときには股関節に体重の3〜4.5倍の負荷がかかるといわれています。股関節への負担を軽減させるため、痛みのない方の脚に体重を乗せ、痛みを感じる方の脚を引きずり歩行します。

変形性股関節症には大腿骨近位部骨折・関節リウマチ・大腿骨頭壊死・感染症や腫瘍など鑑別すべき疾患があります。これまで紹介した所見やテストが1つでも当てはまれば変形性股関節症と診断されるわけではなく、画像診断や診察から総合的に判断されます

変形性股関節傷の治療

変形性股関節症の治療には保存療法・運動療法をベースに進行の程度に合わせて薬物療法・観血療法が実施されます。

保存療法
・生活習慣の見直し
まずは股関節への負担を減らすことを目的に、生活習慣の見直しを行います。負担を減らすことで痛みの緩和や進行を抑えることにつながります。日本人の変形性股関節症の多くは生まれつき寛骨臼形成不全によるものが多いですが、さらに状態を悪化させている要因に深くしゃがむ姿勢や、地べた中心の生活など、日常の習慣から股関節に負担をかけています。


また変形性股関節症になると痛みを庇う生活になり、膝や足といった関節にも負担がかかります。変形性股関節症の歩行を解析したところ、健常者との歩行と比べてみると、患側の足の踏み切り時に膝の内旋力や屈曲力が3〜5倍も増加しており、また足関節外側への負荷は6倍も増加していたことがわかっています。さらに変形性膝関節症の発症リスクも高まることからも、日常生活を見直すことは、股関節だけでなく膝や足など体全体の負担の軽減になるのでとても重要です。

参考:変形性股関節症 - Mindsガイドラインライブラリ 59/246ページ
閲覧日時2021.7.11 11:00https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/osteoarthritis-of-the-hip/osteoarthritis-of-the-hip.pdf


では具体的にどのような生活習慣を見直すのか紹介します。
・和式トイレから洋式へ変更する
・よく使う物は棚など上の方に置く
・玄関には座り込まず、椅子を用意して靴を履く
・椅子やソファーで過ごすようにする
・肥満の方は減量する

一度に全て行うのは大変なので、できることから実践していくと日々の股関節への負担を減らすことができます

薬物療法、薬物療法、観血療法

・運動療法
生活習慣の見直しにより、股関節への負担を減らすことができれば次に運動療法を行います。運動療法には大きく2つの目的があります。トレーニングにより筋肉をつけ、ストレッチで関節の可動域を高めることです。股関節の安定性を高めるには腸腰筋を鍛え、痛みで固まった大腿四頭筋を伸ばすことで股関節の可動域を高めます。またプールでの歩行運動では浮力により関節への負担を和らげられることから、普段痛みで運動できない・歩けない方は比較的取り組みやすいです。

ただし痛みを感じながらのトレーニングは関節への負担になるため、痛みなくできる姿勢を見つけ出すことがポイントです。これらトレーニングやストレッチなどの運動療法により関節を安定させ、痛みを抑えることが期待できることから、例え手術になったとしても術後に継続的に行うことがポイントです。

薬物療法
薬物療法により痛みの緩和を図ります。薬により変形性股関節症が治る訳ではありません。しかし痛みが一時的にでも緩和すれば運動療法を取り入れやすく、運動が習慣化することで股関節周囲の筋肉が鍛えられ痛みの緩和につながります。ただし薬には副作用があることから自己判断せずに医師の診断のもと薬を服用しましょう。

観血療法
前股関節症や初期股関節症には生活習慣を見直し、運動に取り組むことで進行を防ぎますが、進行期から末期股関節症に生活習慣の見直しと運動療法を取り入れたとしても、最終的には手術が行われることがほとんどです。

観血療法には自分の関節を残す関節鏡視下手術や骨切り術があり、関節を人工の関節に置き換えるものには人工股関節全置換術があります。

・関節鏡視下手術
股関節に内視鏡を入れ、モニターの映像を見ながら股関節の痛みの原因となっている軟骨などを取り除きます。骨を削ることなく体への負担も小さいことから、年齢や進行の程度を問わず受けることができます。ただし関節の形状を変える手術ではないため、再び痛みが出る可能性があります。また骨切り術を行う場合、あらかじめ関節鏡視下手術により関節内部の軟骨を取り除くことで治療効果を高める方法もあります。

・関節鏡視下手術
・関節鏡視下手術

股関節に内視鏡を入れ、モニターの映像を見ながら股関節の痛みの原因となっている軟骨などを取り除きます。骨を削ることなく体への負担も小さいことから、年齢や進行の程度を問わず受けることができます。ただし関節の形状を変える手術ではないため、再び痛みが出る可能性があります。また骨切り術を行う場合、あらかじめ関節鏡視下手術により関節内部の軟骨を取り除くことで治療効果を高める方法もあります。

・内反骨切り術、外反骨切り術

大腿骨の内側をくさび型に削り取ることで大腿骨頭の角度を調整します。手術には寛骨臼の形が残存していて大腿骨頭が傷んでいないことが条件です。

・外反骨切り術

大腿骨の大転子下部をくさび型に切り取り、プレートやスクリューで固定することで、寛骨臼に対する大腿骨頭の角度を変えます。

・寛骨臼移動術・寛骨臼回転骨切り術
・寛骨臼移動術・寛骨臼回転骨切り術

前股関節症〜初期股関節症や大腿骨頭の変形がない進行期股関節症に寛骨臼を大腿骨頭に沿って厚さ2〜3センチほど半円型にノミで削り、寛骨臼外側に回転させることで大腿骨頭を覆う範囲を増やします。これにより、股関節を傷める以前と同じような生活をくることができます。ただし関節軟骨が残っていて、寛骨臼のカーブが大腿骨頭に一致していることが手術の条件です。

・キアリ骨盤骨切り術
・キアリ骨盤骨切り術

腸骨を真横に切り取り、上下の骨片を左右へ移動・固定することで寛骨臼を整えます。大腿骨の角度を調整する外反骨切り術と併用して行うことが多いです。

・寛骨臼形成術

腸骨の一部を切り取る方法です。骨片を寛骨臼に移動させ、大腿骨頭を覆う範囲を増やすことで股関節を安定させます。股関節の変形が軽く、40代以下の比較的若い方に選択されます。

・人工股関節全置換術
・人工股関節全置換術

傷んだ股関節を取り除きます。具体的には寛骨臼、大腿骨頭、関節軟骨を金属やセラミックに入れ替える手術です。主に60歳以上の方、長期のリハビリ期間を取れない方、進行期から末期股関節症の方、骨切り術を受けても病気が進行してしまう方には人工股関節全置換術が適応されます。

人工関節で傷んだ部位を入れ替えることにより、痛みから解放された生活を送ることができます。また骨切り術と比べて早期に日常生活へ復帰できることが特徴です。

ただし部品の耐用年数には20年ほどと寿命があるほか、人工関節の脱臼に注意が必要です。また体への侵襲が大きいので感染症や金属アレルギー、深部静脈血栓症にも気をつけながら過ごさなければいけない特徴があります。

股関節の人工関節は主に3つの部位で構成されます。大腿骨頭を覆う寛骨臼部にソケット、大腿骨頭と軟骨の役割にインサートランナー、大腿骨に埋め込むステムからなります。素材にはチタン合金・コバルトクロム合金・ステンレススチール・ポリエチレン・セラミックなどが使用されます。

人工関節を強固に固定するためにセメントを使用する方法があります。寛骨とソケット・大腿骨とステムの隙間に骨セメントを入れ込むことで固定力を高めます。セメントを使用しない場合にはソケットやステムの表面に粗い金属粉をつけ加工をすることで、骨が再生していく過程で金属粉と絡まり合い固定力を高めます

変形性股関節症の予防

変形性股関節症を予防するには、まずは股関節に負担がかかる姿勢や習慣を避け、運動を習慣化させ、股関節周囲の筋肉を鍛えることで関節の安定性を高めます。

特に60歳以上において、猫背のような骨盤が後ろに倒れる骨盤後傾では、変形性股関節症の頻度が高いことがわかっています。日頃から姿勢には気をつけ、猫背にならないよう背筋を伸ばす意識は変形性関節症を予防する上でポイントとなります。

また歩行の際には、不安定なヒールやサンダルではなく安定性のあるスニーカーを履くことで負担を減らせられます。

まとめ

体重を支え、立ち歩きや座る時など日常のほとんどの動作に関与するのが股関節です。そんな体の要の役割をする股関節を傷める病気が変形性股関節症です。日本人は女性に多く、原因は生まれつきの寛骨臼形成不全からくるものです。

ただ寛骨臼形成不全と診断されたとしても、日々の過ごし方次第で股関節への負担を軽減できることから、和式トイレを洋式に変えるなど生活習慣を見直し、股関節周囲の筋肉を鍛えることで股関節への負担を軽減できます。

仮に変形性股関節症と診断されたとしても、前・初期股関節症では日常生活の見直しをすることで痛みを抑え、手術をしなくてすむ場合もあります。そのためには股関節に違和感がでた時点での受診を心がけてください。早期発見することで保存療法・観血療法などあらゆる治療手段を選択できるようになることから、日頃から股関節に気を配りながら生活することが変形性股関節症と向き合う上で大切なことです。

また進行してしまった変形性股関節症に対して、「人工股関節全置換術のような大きな手術はしたくない」という方には再生医療という選択肢があります。最新の治療法により失われた軟骨を再生させ痛みを緩和し、手術をせずに済む可能性が高まります。これにより変形性股関節症の治療の幅がさらに広がりました。